木村拓哉からの意外な申し出に驚く「これが本当のプロフェッショナル」世界的大作ドラマ”THE SWARM”プロデューサーが撮影を振り返る
2023.3.17 21:003月4日からHuluで独占配信が始まる海洋SFサスペンス『THE SWARM/ザ・スウォーム』。ヨーロッパ各国の主要放送局とHulu Japanが共同で制作、世界各国の豪華俳優陣が集結し、日本からは木村拓哉が海外ドラマ初出演とあって注目を集めている。さらに注目すべきは『ゲーム・オブ・スローンズ』のプロデューサー、フランク・ドルジャーが企画、製作総指揮を務めたことだ。木村拓哉のプロ意識に感動したと語るフランク・ドルジャー氏に、本作の魅力や舞台裏を聞いた。
パンデミックの中で進めた国際的なビッグプロジェクトには、世界の今が映し出された
『ゲーム・オブ・スローンズ』といえば、2011年の放送からシリーズを重ね8年間、世界中で大ヒットを記録。映画のアカデミー賞に匹敵する放送番組の最高栄誉、エミー賞を幾度も受賞している。その主要なディレクターの一人が、フランク・ドルジャー氏である。その彼が、『ゲーム・オブ・スローンズ』後、初めて手掛けたのが『THE SWARM/ザ・スウォーム』だ。
原作は2004年にドイツで発表されたベストセラー小説。深海で起こる謎に科学者たちが挑む物語で、根底には環境問題が滲んでいる。「この小説を映像化しようと思った理由は?」との問いにドルジャー氏は、「5年ほど前に映像化の話が持ち込まれました。20年前に書かれたと思えないぐらい、まるで今日起きていることを予期していたかのような内容に本当に驚いたんです」と話し始めた。
温暖化をテーマしたドキュメンタリーなどが数多くつくられる昨今、あえて本作に挑んだことについて「登場するキャラクターたちが牽引するエモーショナルなドラマによって環境問題を掘り下げられないか、そうすればドキュメンタリーなどを見飽きてしまっている人にも響く作品になるのではないかと思いました」と加えた。
『THE SWARM/ザ・スウォーム』は、ドイツ最大級の公共放送局ZDF、フランス国営放送局グループFrance Televisionsをはじめヨーロッパ各国の主要放送局やエンターテインメント企業が参画。日本からはHulu Japanが参画し、世界同時放送&配信される国際的なビッグプロジェクトだ。イタリアを皮切りに撮影がスタートするも、新型コロナウイルス感染拡大のパンデミックにより、クランクイン前の顔合わせはZoomで行われたという。
そんな制作現場でドルジャー氏は心に残ったことがあると言う。それは、Zoomでの顔合わせ後にかかってきたある演者からの1本の電話。Zoomの画面を通じてスタッフやキャストの顔を見たその人物から「世界の多様性をそのまま反映したかのようだ」と言われたことがきっかけだったという。
「温暖化の影響というのは、世界各国誰しもが等しくさらされている脅威です。さらに、10カ国以上の国や地域から集まったキャストやスタッフは、今現在の世界の多様性を表している。『THE SWARM/ザ・スウォーム』は真の意味で国際的な作品だということに気づかされました」
そう語るドルジャー氏は、“国際的”の一員としてHulu Japanが参画したことについて「今作の制作を通じて、国際的な作品がどういうものなのかを改めて再定義することができました」と述べ、Hulu Japanとは別の企画も進めていると明かした。
木村拓哉の行動に感嘆。「これが本当のプロフェッショナルだ」
さらに作品についてドルジャー氏は、発表から20年近く経た原作を映像化するにあたって、現代らしさを加える工夫をしたと話す。一つは、登場する科学者メンバーを多様なバックグラウンドを持つキャラクターに変えたことだ。年齢、性別も変えた。もう一つは、コンサルタントのアドバイスを受けエネルギー資源開発の市場的な背景をアップデートしたことだ。
そして、重要人物として、金銭的な支援で科学者たちを後押しするアイト・ミフネというキャラクターを新しく設定したと言う。海運業で富を築くと同時に海にダメージを与えてしまったことも自覚する知的な人物。演じるのが、木村拓哉だ。ドルジャー氏は“アイト・ミフネ”にどんな思いを込めたのか。
「先進国の中でも特に海と深い関わりを持つのが日本だと思います。約7,000の島があり、陸地の約12倍の海域を持つと本で読みました。本作で、科学者たちが頼る相手が必要だと考える中、海と深く関わりのある国の人がいいと日本人にしました。
木村さんについてはハッとさせられた部分が3つあります。1つ目は年齢を重ねていて大人の成熟した権威を表現できる感性、2つ目は知性が感じられること、最後にスクリーン上の存在感でした。木村拓哉さん演じるアイト・ミフネは、原作の後半で非常に重要な役割を果たす米軍総司令官の女性ジュディス・リーを木村さんのイメージに合わせてつくり変えたキャラクターです」
さらに木村拓哉と共にした仕事についてドルジャー氏は「とても素晴らしかったです。撮影はとてもスピーディーで複雑なシーンもあったのですが、見事に演じ切ってくださいました」と語った。特に感心したのは、ミフネのオフィスの撮影シーン。2日間で多くのシーンを撮影しなければならず、時間に追われる現場での出来事だ。
衣装替えなどのために、撮影現場から離れた場所に控室を用意していたところ木村から、控室の用意にはとても感謝しているが、移動時間がもったいないから撮影場所にスペースを用意してくれればそこでメイク直しや着替えをすると申し出があったと言う。そこでセットの角にカーテンを掛けてスペースをつくり、30分を予定していた衣装替えが5分に短縮できたのだそうだ。
ドルジャー氏は、「おかげでさまざまなアングルで撮影ができたし、監督と共に演技を深めていくことができました。作品や演技以上に自分がどう扱われるかの方が大事というスターが結構いらっしゃいますが、木村さんは全くそうではありませんでした。木村さんの発言から、時間を無駄にせずより良い作品をつくりたいという思いを感じ、これが本当のプロフェッショナルだなと感心しました」と語った。
敏腕プロデューサーが挑戦した新しい“海”の表現。こだわりには深い思いがあった
『THE SWARM/ザ・スウォーム』は深海SFサスペンスと称され、クジラやシャチが突然人間を襲い、ロブスターによる謎の感染症がまん延するなど、世界中の海で起こる異変に人類が立ち向かう姿を描く。これについてドルジャー氏は、自然災害を描くパニックものではなく “モンスターもの”としてアプローチしたと言う。「モンスターは海の中に潜んでいるのではなく、そのモンスターとは一体何なのか見てのお楽しみですが、きっとその展開に驚かれるのではないでしょうか。エンターテイメント作品として楽しみながらもそういった気付きを得てもらいたい」と語る。
さらに、『ゲーム・オブ・スローンズ』など大規模なプロジェクトでさまざまな挑戦をしてきたドルジャー氏だが、本作でさらに挑戦したことがあるという。
「1つ目は、“海”を1つのキャラクターとして描いたことです。屋外のシーンはなるべく海の近くを撮影場所として選び、視覚からも音からも“海”の存在を感じられるように工夫しています。2つ目は、海のシーンは場所によって、ビジュアルやサウンドを全く異なるものに変えているという点です。“海”は美しくも危険な場所であり、人間よりもはるかに力強い存在だと表現したかったんです」
ドルジャー氏は音の使い方へもこだわりを見せた。「本作はモンスターものとして描いていますが、視聴者は最後の最後までその姿を見ることがないので、生命体が発する音や海の音のリアル感にこだわり、見えないけれども感じることのできるキャラクターとして表現しました」
『THE SWARM/ザ・スウォーム』は世界中から集められた国際色豊かな実力者俳優、秀逸なクリエーターたちが作り上げた壮大な作品だ。ヨーロッパ最大級の水中スタジオで撮影された映像美や、精巧で大掛かりなVFXに息をのむ視聴者も多いだろう。
「まずは作品を楽しんでいただきたいです、が」とドルジャー氏は続けた。
「原作とは違い、みんな善悪のバランスが取れたキャラクターとして描いています。気候変動や海を守るために、われわれ全員が行動することができるのだということを伝えたかったからです。今まで皆さんが環境に対してどう振る舞ったのかは別にして、本作を見ることで、環境に対してまた違った向き合い方ができるようになればと思っています。
また若い世代の中には、環境に対するダメージがあまりにも大き過ぎて、希望がないと思っている人もいると思います。そんな方にも、作品を見終わった後に、まだまだ私たちにもできることがあると感じてもらえればうれしいです」と作品への思いを視聴者へのメッセージに託して、インタビューは終了した。
【作品情報】
Huluオリジナル「THE SWARM /ザ・スウォーム」(全8話)
Huluで独占配信中
<スタッフ>
製作総指揮:フランク・ドルジャー(「ゲーム・オブ・スローンズ」(11~19))
監督:バーバラ・イーダー(「バーバリアンズ -若き野望のさだめ-」(20)
「Thank You For Bombing(原題)」(15))
ルーク・ワトソン(「Britannia(原題)」(18)「リッパー・ストリート」(12~16))
原作:『THE SWARM』フランク・シェッツィング著
脚本:スティーヴ・ラリー(エミー賞ノミネート作品「ストライクバック」(10~20))
マリッサ・レストラード(「ディープ・ステート」(18~))
制作:インタグリオ・フィルムズ、ndFインターナショナル・プロダクション