「デフリンピックへ向けた挑戦」――デフサッカー日本代表 聖地・国立競技場でクリアソン新宿と初の強化試合へ
2025.2.17 13:15
2025年1月28日、国立競技場で行われたデフサッカー男子日本代表とJFL所属のクリアソン新宿とのエキシビションマッチ記者会見。この舞台は、11月に開催される「デフリンピック」へ向けた日本代表の挑戦を多くの人々に伝える場となる。デフサッカーの魅力や代表チームの情熱が語られたこの会見の模様をお届けする。
デフサッカー日本代表が国立競技場に立つ意味
「国立競技場はサッカーの聖地。ここでプレーできることに感謝しかありません」。そう語るのは、デフサッカー日本代表の吉田正義監督だ。今回のエキシビションマッチは、日本代表として初めて国立競技場に立つ機会。吉田監督は「選手たちをもっと多くの人に知ってもらいたい。障害は個性であり、耳が聞こえないという特性を超えて、選手たちがどれだけ高いレベルでプレーしているかを見てほしい」と熱く語った。

キャプテンの松元卓巳選手も、この試合への感慨を口にする。「高校1年生の時にスタンドから国立競技場を見たことがあります。そのときから『いつかこの場所でプレーしたい』という夢がありました。それが19年越しに実現するとは本当に感慨深いです」。
また、副キャプテンの古島啓太選手は、「この試合を通じて、デフサッカーの魅力や可能性をもっと多くの方に届けたい」と意気込んだ。
松元キャプテン、国立での夢と涙――「八咫烏(やたがらす)のユニフォームに込めた思い」
松元キャプテンは、名門・鹿児島実業高校サッカー部出身。高校1年生のとき、全国大会に出場し、聖地・国立競技場に足を運んだ。「あの時、スタンドから見た景色を忘れられません。『いつかこの場所でプレーしたい』と強く思ったのを覚えています」。それから約20年。国立競技場のピッチに立つ夢がついに実現する。
彼にとってもう一つ忘れられないのが、2023年4月にJFAのエンブレム入りのユニフォームを初めて着用したときのことだ。松元選手は当時の記憶をこう語る。
「高校2年生の時、デフサッカーと出会ったのですが、その頃はユニフォームを自分で買う必要がありました。試合後、海外の選手たちはユニフォーム交換を求めてきますが、私たちは1枚しか持っていないので交換できなかったんです」。
2023年、JFAのエンブレム入りユニフォームが採用され、デフサッカーが他のサッカー団体と同じ「日本代表」の名を背負うようになった。「現役の間に、このユニフォームが着られるとは思っていませんでした。その知らせを聞いた時、これまでの苦労が報われた気がしました。一緒に戦ってきた仲間にも着させてあげたかったという思いもありました。」と語る彼の目には、こみ上げる思いと共に涙があふれていた。松元選手にとって、デフサッカーとは「感謝の積み重ね」だという。「支えてくれた人々や、一緒に戦ってきた仲間がいたからこそ、今がある。この恩をプレーで返していきたい」。夢の舞台・国立競技場でのエキシビションマッチは、その思いを形にする特別な一日となるだろう。

デフリンピックとは? 日本代表の挑戦
デフリンピック(Deaflympics)は、英語で聞こえないという意味の「デフ(deaf)」+オリンピックのこと。4年に一度、夏と冬に開催される聴覚障害者のための国際スポーツ大会であり、パラリンピックよりも、その歴史は長い。今年のデフリンピックは、11月に開催される予定で、日本で初開催。世界中からトップデフアスリートが東京に集結する。さらに、今年で100周年を迎えるメモリアル大会となる。
古島副キャプテンは「私たち日本代表はこの記念すべき年に世界一を目指します」と力強く語った。おととしのワールドカップでは、ウクライナと決勝を戦い、2対1で惜しくも敗北。しかし、「あの悔しさが今の私たちの成長につながっています。今年のデフリンピックでは、必ずその借りを返します」と熱意を見せた。
吉田監督は「トップの国々、特にウクライナ、トルコは強豪です。デフリンピックで勝つためには、さらなる成長が必要です」と語る。日本代表はこれから月1回程度の合宿を重ね、戦術や体力面を徹底的に強化していくという。
今回のエキシビションマッチでは、JFL所属のクリアソン新宿との対戦が決定している。この試合は、デフリンピックに向けた強化試合としてだけでなく、デフサッカーの認知度を広げる大きな意義を持つ。
「まだまだデフリンピックの認知度は低いです。最新の調査で39%まで認知度が上がったものの、目指すべきは100%。この試合を通じて、さらに多くの人にデフリンピック・デフサッカーを知っていただきたいです」と古島副キャプテンは語る。

未来への挑戦――デフリンピックへ向けて
デフサッカー日本代表は、長い歴史の中でさまざまな困難を乗り越えてきた。かつてはユニフォームすら自費で購入し、雑草が生える土のグランドで練習するなど、環境が整わない中で活動を続けてきた選手たち。それが今、サムライブルーのユニフォームに身を包み、国立競技場でプレーするまでに至った。「この環境に甘えることなく、さらなる高みを目指したい。世界に向けて、日本のデフサッカーの強さを発信できるよう努力を続けます」。松元キャプテンの言葉には、日本代表としての誇りと覚悟が込められていた。
11月のデフリンピックに向けた日本代表の挑戦は、ここからが本番だ。彼らの活躍を、ぜひ会場で応援してほしい。

≪試合概要≫
対戦:デフサッカー男子日本代表 vs クリアソン新宿
日時:4月2日(水)19:00 キックオフ
会場:国立競技場(東京都新宿区霞ヶ丘町10-1)
自由席(前売大人):¥2,500
自由席(前売高校生):¥1,500
中学生以下無料
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