人間国宝・坂東玉三郎 息遣い聞こえるほどの“超至近距離”公演 「大劇場は体力的に難しくなってきた」

2023.6.8 17:00

日本を代表する女方の歌舞伎俳優にして人間国宝の坂東玉三郎。自身がセルフプロデュースする公演の制作発表記者会見を6月5日に都内で行った。

表現者・坂東玉三郎の“想い”が詰まった新しいスタイルになるという今回の公演。1週目(9月2日~10日)は、口上&衣装解説を実施し、本人所有の貴重な衣装を自らまとい、解説を交えながら披露するという。

紹介する衣装は5点ほどで、9月後半には海外での展示会で2〜3年は戻ってこないため、1週目での紹介になったそうだ。

坂東 口上というか“トーク”ということになるんでしょうか。歌舞伎的な衣装、かつら、化粧をしてのトークになりまして、衣装の紹介と解説。近くで見ていただけるので、すごく楽しいと思います。

2週目、3週目(9月12日~24日)は“スペシャルコンサート”と題して、シンプルなステージセットで坂東が歌声を披露。“いま伝えたい歌”をダイレクトに届けるという。

坂東 曲数は大体18から19曲で90分ということになっております。歌い上げる歌もあるんですけれども、こういう小さなとこでひっそりと歌える歌というか、例えばボサノバであるとか、そういったものを小さい空間で歌って聴いていただけるというものをいま選定中でございます。

◾️“超至近距離”公演のメリットとデメリット

本公演の舞台となる会場は東京・南青山のミュージックホール&バー『BAROOM』。息遣いを感じるほどに客席との距離が近い、すり鉢型の円形ホールが特徴的な100席限りの小さな劇場だ。

現在、73歳の坂東玉三郎だが、こうした小規模なステージに立つのは、30代後半で舞台『ナスターシャ』に出演した時以来、35年ぶりのことだという。報道陣から小さな舞台のメリットとデメリットを聞かれると・・・

坂東 この年齢で近くで見られるということがデメリットでございます(笑)

メリットとしては、その場でお客様に近くで見てもらえるということと、ある種の即興性もあると思うんですね。お客様としても、ものを見たりする、衣装を見たりするには“近くで見られる”ということがメリットだと思います。

◾️体力の限界感じた時に運命的な出会い

歌舞伎座をはじめさまざまな大舞台に立ってきた坂東だが、近年はブルーノート東京や大阪ビルボードなどで、コロナ禍の影響もあり客席120人ほどのコンサートを開催してきた。そういった「緊密なところでお目にかかるということが大事だな」と考えていた折に、本公演の話が舞い込み、うれしかったという。

そして今回のような試みについて報道陣から「新しいことに挑戦するチャレンジ精神からでは?」と聞かれると、意外なことに坂東は年齢的な理由を挙げた。

坂東 チャレンジという気持ちは、はっきり言ってあまりないです。ざっくばらんに本音を申し上げれば大劇場で大きい責任、大きい役で大劇場を何ヶ月も開けるということの体力についても自分で考えてきたわけなんですね。その大役で大劇場の1ヶ月の間の一晩を背負うということが、なかなか体力的に難しくなってきたんです。

そういう時にこういうお話をいただいたのが、自分のこれから生きていく道としていいのではないかと考えたので、チャレンジというよりは粛々とこういう芸術的な活動ができるということが僕の目的ですし、新しい道であるかどうかっていうことは、僕としてはあまり考えていなくて、お話をいただいたことで、お客様との関係が非常に充実した。運命的な本当に幸せなことだと思っております。

『坂東玉三郎 PRESENTS PREMIUM SHOW』

日時:2023年9月2日(土)〜9月24日(日)

会場:song & supper BAROOM

   東京都港区南青山6-10-12 フェイス南青山1F

出演:坂東玉三郎

【坂東玉三郎Profile】

昭和25年(1950)4月25日、東京に生まれる。

歌舞伎界を代表する立女形(たておやま)。『兜軍記』の阿古屋、『籠釣瓶』の八ツ橋、『先代萩』の政岡など六代目中村歌右衛門が演じた数々の大役を継承し、新しい境地を構築している。また歌舞伎の枠を超え、女方として世界のさまざまな舞台芸術に大きな影響を与えている。30代でニューヨーク・メトロポリタン歌劇場に招聘(へい)されて『鷺娘』を踊り絶賛されたのをはじめ、アンジェイ・ワイダやダニエル・シュミットの映画作品、モーリス・ベジャールやヨーヨー・マなどの芸術家たちと多彩なコラボレーションを重ね、近年は中国の崑(こん)劇『牡丹亭』、琉球古典芸能組踊の新作『聞得大君誕生(ちふぃじんたんじょう)』に主演するなど女方の可能性、普遍性を追求。尾上菊之助、中村七之助などを指導して後継者育成にも努めている。

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