木村拓哉主演映画『レジェンド&バタフライ』プロデューサー単独インタビュー「木村さんが語った“エンドロールは信長軍の行進”」

2023.2.15 12:00

木村拓哉と綾瀬はるかによる織田信長と濃姫、2人の激動の人生と愛を描いた映画『レジェンド&バタフライ』。木村拓哉の織田信長を熱望していた東映株式会社プロデューサーの井元隆佑氏は、大切な撮影前の木村にある思いがあったという。井元氏からみたキャスト陣の魅力と撮影時のエピソードについて、話を聞いた。

■万感の思いで見守った「本能寺の変」の撮影

――木村拓哉さんの長年の思いをご存じだった井元さんから見て、今回の作品で最も震えたポイントはどこでしょうか?

企画書を書いている段階から、ラストは本能寺の変を描くというイメージはずっとありました。しかも木村さんが信長のように年齢を重ねられた時期に撮れたので、本当に万感の思いでした。

「史実に詳しくなくとも楽しめる映画」とは繰り返し言っていますけれど、信長は日本でもっとも有名な歴史上の人物の一人であり、本能寺の変はその最期ということで、多くの人が大体のことを知っている。そしてさまざまなドラマや映画で多様な描き方されてきているので、それを超えるためにはどうすればいいのだろう、と考えながらずっとやってきて。大友監督を中心に具現化して形になった今、やはりすごくうれしさがあふれます。

――そのシーンを撮影するにあたって、木村さんと何か言葉を交わされましたか?

撮影に入る前日にお話した時に、「自分はこの企画を実現したいと思った時から、このシーンを目標にずっと動いてきたので、楽しませていただきます」と勝手な思いをお伝えしました。(笑)。ただ本能寺の変はいろいろなスケジュールの都合で、中盤に撮影することになってしまったのは非常に申し訳なかったです。いったん最期を演じた気持ちを切り替えるのは、非常に大変ですから。

でも改めてご一緒した4ヶ月間は本当に濃かったです。こんなにも濃密な時間が過ぎていく映画を撮ることができて、本当に感謝の気持ちしかありません。

■毎回驚かされた「受けの達人」綾瀬はるかさんの演技

――濃姫を演じた綾瀬はるかさんの撮影で、特に印象に残った点はどんなところでしょうか?

濃姫はすごく強い人なのに、その強さだけでは乗り越えることができない事象が次々とやってきて。でも信長という愛せる人がそばにいたからこそ、乗り越えていけるという彼女の像を、綾瀬はるかさんが見事に演じてくれたと思います。おそらく濃姫視点でご覧いただける方もたくさんいらっしゃると思いますし、そこが物語として心が動かされる部分かとも思います。

現場に入るまではいつもの綾瀬さんなのですが(笑)撮影が始まってどんどん濃姫として覚醒して見事に演じられていくので、そこのギャップがすごくて毎回驚かされました。

――木村さんと綾瀬さんのシーンは、どのような雰囲気だったのでしょうか?

木村さんは誰よりも早く現場に来て、リハーサルの最初から100%を出せる状態で臨まれるタイプでした。一方で綾瀬さんはリハーサルをしながらどんどん上がっていくタイプのようにお見受けしました。大友監督は綾瀬さんを「受けの達人」と表現していらっしゃいますが、木村さんがぶつけていくことで綾瀬さんもどんどん上がっていく、そのセッションが見事でした。

――出来上がった作品をご覧になられて、木村さん、綾瀬さんはどのような感想を言われていましたか?

見終わられた後、木村さんはすぐには感想が出てこない様子で、しばらく噛みしめていらっしゃるような感じでした。ただその中で、エンドロールについて、この大勢のキャストスタッフ全員で作品を作り上げたということで、エンドロールが織田信長軍の行進のように見えたそうです。本編中の感想はもちろんあったのですが、特に感慨深く話されていたのを、個人的にはとても覚えています。

綾瀬さんは中谷美紀さんと同じタイミングでご覧になられたんですけど、「自分たちが参加していないシーンがこんな大がかりになっていたんだ」と、興奮されていましたね。長時間、ずっと楽しそうに感想を言い合っていらっしゃる様子を見て、非常にうれしかったです。

■2人の物語を際立たせる、素晴らしいキャストの面々

――主役のお2人に加えて、信長の周辺の人々もそれぞれ非常に印象に残りました。

明智光秀像はそれこそ古沢さんと脚本を作っている段階から、信長に対しての思いがあり過ぎて、ひっくり返ってしまうのは面白いな、と思っていて。その像を脚本として一緒に監督と共有した時に、「クールで麗しい光秀」というト書きがあったんです。それに合致するのが宮沢氷魚くんではないかとなって、すぐにオファーをしました。それを氷魚くんは見事に体現して最高の光秀にしてくれたと思います。

比叡山延暦寺の焼き討ちは、光秀は反対の立場をとった側の人間として描かれることが多いんですけれど、私が見つけてきた資料だと、逆に肯定していたのではないか、という説がありまして。それを古沢さんに、光秀は焼き討ちについて、推進していたのかもしれませんよ、といった話を雑談していた中で、最終的に古沢さんが書き上げたものに、それが光秀像につながる、ひとつ転換になるような捉え方をしてくださったんです。

――確かに魔王であることを崇拝している、という明智光秀は新しいですね。

『レジェンド&バタフライ』流、本能寺の変<古沢説>というか。もちろん史実には残っていませんが、本当にこういうこともあったんじゃないかな、と思わせるような作り方なので。

徳川家康に関しては大友監督から「家康はたぬき顔というか、一見は昼行燈な側面を見せる必要があるんじゃないか」という話になって。演じられた斎藤工さんはビジュアルが整っていらっしゃるので、特殊メイクをすることになりました。斎藤さんもノリノリでやってくださったおかげで、一見すると斎藤さんだと分からない徳川家康が生まれたんです。

――中谷美紀さんが演じる各務野、伊藤英明さんが演じる福富平太郎貞家は、濃姫をずっと支え続けていましたね。

中谷美紀さんは時代物のしきたりといったものをすべて分かっていらっしゃる方なので、一つ一つの言葉遣いから所作まですべてが完璧で、撮影現場はもちろん、作品全体に品性と格をもたらしてくださる存在だったと思います。中谷さんが濃姫に仕えているという設定が、この作品を取りまとめてくれたのだと感じています。伊藤英明さんも中谷さんと同様で、あの伊藤さんが1歩控えてずっと主君に仕えている、という役を見事に演じてくださって、本当にぜいたくだと感じました。

今回は脚本上、信長と濃姫2人のお話なので、ほかの方々に派手な見せ場はそれほど多くはないのですが、皆さんがしっかり軍を固めてくださったおかげで、2人がより際立つ形になりました。

【井元隆佑 Profile】
東映株式会社 プロデューサー。木村拓哉主演『宮本武蔵』でプロデューサー補。その後はプロデューサーとして『刑事7人』シリーズ、『三屋清左衛門残日録』(18~)シリーズ、『闇の歯車』(19)など、東映京都撮影所作品も多い。『刑事7人』では脚本も務めた。

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