ノーベル賞候補の”眠りマスター”柳沢正史教授が語る『睡眠にとって悪いこと』とは

2023.12.21 17:00

「成田先生が終始真剣に聞いてる姿なんて、そうは無い」「成田さんが真面目な学徒として聞いているように見えて新鮮だった」とネットで声が上がるほど、この日の成田悠輔は聞き役だった。“未来の日本を作る変革者=PLAYERS”と成田によるトーク番組『夜明け前のPLAYERS』での一幕だ。対談相手は睡眠研究で世界をけん引する、次期ノーベル賞候補の呼び声も高い筑波大学の柳沢正史教授だ。

柳沢教授が睡眠に関する重要な要素として挙げるのが、睡眠の“量と質と規則性”。成田は規則性について気になることがあるようだ。「睡眠が不規則な人と規則正しい人とを比べると、不規則な人は高血圧や心筋梗塞など血管疾患のリスクが上がる」と指摘する柳沢教授に、「規則的であれば、明け方に寝て昼過ぎに起きるのも問題ないのか?」と詰め寄った。

■朝型か夜型かは生まれ持った体質 夜型の学生はたたき起こしてはいけない?!

「朝型か夜型かというのはDNAレベルで決められた、生まれ持った体質なのです」と柳沢教授。いわゆる体内時計の周期は、個人差があるものの平均して24時間より少し長めで、さらに長めの人が夜型、逆に短めの人が朝型になるそうだ。トレーニングで容易に変わるものではないらしい。

「夜型の人は遅寝遅起きのほうが調子がいいし、朝型の人は早寝早起きのほうが調子がいい」としながらも「残念ながら、人間社会は朝型の人に有利にできている」と言う柳沢教授の言葉に深く同意する成田。「自分、ずっとそれに悩まされてきたんです。この社会、夜型人間につらくあたっているし、規則正しく眠れない人間に不利にできていますよね」

それが問題だと柳沢教授も指摘する。「夜型の人の特徴は、夜眠くならないことなんです。だから、朝型の社会では、翌日早く起きなければならないのに眠れず、結果的に睡眠時間が削られる」。要は睡眠で一番大事な“その人にとっての十分な量”を得られなくなるのだ。

朝型か夜型かというのは年齢によっても変わるらしく、生物学的に若者は夜型なのだとか。本来の体内時計に変化はなく、なぜ年齢によって変化するのかは分かっていないが、ゆえに「睡眠学的には、高校生や大学生を朝たたき起こしてはいけない」と言う。

思春期から30歳代前半頃までが夜型で、朝型に変化するのは40歳代からだとして柳沢教授は「日本は“失われた30年”と言われて久しいですが、私の立場から見ると、国民総睡眠不足のせいじゃないか」と思うのだとか。睡眠不足の働く世代が多く、本来のパフォーマンスが発揮できていないことが日本の発展に影響しているのかもしれない。

実際アメリカでは、若者の睡眠不足対策として“スタートスクールレイター”という始業時間を遅らせる運動があり、それによって校内の平均成績が上がったという成果が出ているらしい。日本でも“うとうとタイム”と称した昼食後の仮眠を設けている高校があり、生徒から「午後の調子が良くなる」との声が聞かれているそうだ。

仮眠の効果は実証されているが気をつけるポイントがあると柳沢教授。横にならなくても良いが、脱力ができ首がゆらゆらしない寝姿が良く、耳栓・目隠しができるとなお良い。時間は長くても20分。遅くても午後2時頃までに終わらせること重要だそうだ。ただし「仮眠は睡眠不足の応急処置でしかない」との注意も。十分な睡眠をとっていれば、仮眠すらできないはずなのだからだ。

■睡眠の質を良くするには 睡眠にとって悪いことを減らすしかない

もう一つ、柳沢教授がぜひ言っておきたいと挙げたのが「量を確保せずに質を論じても意味はない」ということだった。眠りの質が注目されるようになってから「短い時間で質の良い睡眠はできないか」とよく聞かれるそうだ。「それはナンセンス。質で量はカバーできないんです。まずは量を確保することが第一歩」で、その上で質を考えるべきなのだとか。しかし、万人に共通する“睡眠の質が良くなる方法”はなく、「こうすると悪い」ということを減らすほかないようだ。

まずは、カフェインやニコチンといった覚醒作用のあるものを睡眠前にとらないこと。コーヒーをがぶ飲みしても眠れるという人がいても、その睡眠の質はとても悪い。カフェイン代謝の個人差はあっても、カフェインが睡眠に悪影響しない人はいないのだとか。

アルコールも良くない。急性の催眠作用があるため日本人には寝酒をする人が多いが「睡眠学的には最悪」らしい。アルコールもカフェインも、夕飯時にたしなむ程度にとどめるのが良いとのことだ。

明るい部屋や、テレビやラジオのつけっぱなしも良くない。光や音に反応して体内時計が遅れるからで、そういう意味で寝落ちもNGだ。そう考えると「日本の住宅って夜が明るすぎるんですよ」と柳沢教授。「(寝室以外)リビングやダイニングも、少し薄暗いと感じるくらいにする」のがおすすめだそうだ。

エアコンのつけっぱなしもおすすめだとか。朝まで適温であることが睡眠の質を保つため、電気代を論じるより価値があると思うとのこと。同時に寝具も重要。例えば、寝汗をかいている状態では睡眠が浅い。

「一つの布団に一緒に寝るのは?」と成田が問うと、「家族で同じベッドに寝たとしても、掛け寝具や敷きパッドといった寝具は分けたほうがいい」と柳沢教授。さらに、日本は子どもと親が一緒に寝ることが多いが、子どもが大人の生活スタイルに引きずられてしまうことも併せると「睡眠学的には一緒に寝ないほうがいい」とも言う。

また、「電車の中で眠るのは睡眠になっていない。まどろみと覚醒の間をただよっているだけです」と指摘。「電車の中で眠る寝落ち族は日本文化になっていますね」と成田。「日本の社会は眠れなくする要素が多い」と嘆いた。

本対談は『夜明け前のPLAYERS』公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が配信されている。

「夜明け前のPLAYERS」
公式HP:PLAY VIDEO STORES
公式YouTubeはこちら

写真:@entax

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